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最後のひいやさん


織物は、経糸(たていと)の間に緯糸(よこいと)を交差させることで織られてゆきます。このとき、緯糸を挿すのに使う道具を杼(ひ)と言います。と、こんな説明をしなくては、“杼って、なに?”と問われることもよくあるご時世となったようです。
この杼を作る専門店が、京都西陣で一軒を残すのみとなりました。絶滅寸前の道具の一つに加わりそうです。発送を待つ棚には、日本各地からの織物作家からの注文品や修理品が並んでいる長谷川杼製作所をお訪ねしました。

 
  長谷川淳一さんは杼作り3代目。西陣に機音が響いていたころは十数件もあった「ひいやさん」。最盛期には長谷川さんのところだけでも年間5000丁は作ったそう。それが今は150〜200丁。“この商売では食べてゆけしません、、、”とおっしゃる。国は選定保存技術保持者との称号はくれるけれども、後継者を育てるための補助金などは出しません。この道具の作り手のプロを育てるのに必要なのは、タイトルではなく経済的支援なのに。規制品の杼を作るところは残るでしょう。でも、織る布や機の種類によって細かく使いわけられる杼、個人の手や好みにあわせて微調整してくれたり、修理したりの細かな要望に応えてくれる職人は、日本の絹織物のメッカ、京都西陣からいなくなってしまいそうです。
 
 
  杼の胴体は目のつまった宮崎産赤樫の柾目。10〜20年ほど寝かせて狂いが出ないようになるまで乾燥させます。杼によっては滑りをよくするために薩摩黄楊の小さな駒をつけます。駒を胴体にとめるのは鋼。どちらも摩擦に強い。摩滅を防ぎ、杼を飛ばすときのバランスを保つための先端の杼金は砲金。糸口は清水焼の硬い磁器。仕上げに塗るのは櫨蝋。どの部材も、長年の経験から理由あって選ばれたものが使われています。道具といえども、いや道具だからこその細心の注意が込められているのが分かります。美しい布を織りたい、少しでも使い易い杼がほしい、と望む使い手との日々のコミュニケ−ションのつみ重ねがあります。いい加減な道具は作れない、とこだわってきた代々の職人気質が、2mmほどの穴の白い糸口から伝わってくるようです。
祖父の時代からのものという長谷川さんの使う道具は、木部が黒光りしています。それらを手早くつかみ、穴をあけたり削ったり磨いたり。仕上げのやすりをかけるのは横に座った奥様。工芸家の技を支える道具作りは、一番地味な作業です。自分の代で終わらざるをえない家業の技に、たんたんと手を動かしていらっしゃるお二人の静かな佇まいが印象に残りました。
糸も、染めも、織りも、仕立てさえも外国製という着物が増え、竹筬(たけおさ)などの道具も中国製となりつつあるのが現状。とても残念だけれど、私たちの選択でもあります。
    長谷川杼製作所 075-461-4747
   


(2006/4 よこやまゆうこ)

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