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『立体の布を織る堀内雅博さんを訪ねて』


工房探訪シリーズでお訪ねしている作り手の方々のなかでは、今回の堀内さんは、着物の世界とファイバーアートに近い世界を自由に行き来している、ちょっと異色の染織家です。その公の肩書は長野県工業技術綜合センター研究企画幹。情報技術部門でデザインを担当され、一見、染織とは関わりのない仕事に携わっていらっしゃいます。その一方、社団法人日本クラフトデザイン協会の理事でもあり、50年の歴史をもつ日本クラフトの推進者でもあります。そして、奥様の隆美子さんと共同で運営する染め織りのスタジオSYLVAN(シルバン=森の住人)での活発な創作活動を通じては、70年代からかずかずの公募展で主要な賞を獲得し注目を集めてきました。


唐松林のなかに建てられたスタジオは、自然に恵まれている点でも、広いスペースが確保されている点でも、染め織りをする環境としては理想的といえるほど完備されています。美大ではグラフィック専攻とはいうものの、かなりメカに強いと言うか、お好きなよう。例えば、廃業した織り屋から不要となった機器を貰い受け、やりたい作業に合わせて改良した、コンピュータ制御で綜絖(そうこう)が動くよう改造された機。また、昭和10年製の巨大な整経機は飯田の機屋から譲りうけたもの。既成の糸は使いたくないので、好みの合糸や撚糸ができるようと電動撚糸機を導入。この機械を使うと、熱融着糸といった糸繰り器などでは始末に負えそうもない糸も使えるようになり、加熱により融けて見えなくなる効果を狙うことも可能になりました。コンピュータ制御の機では、緒糸(ちょし=繭からとれる最初の堅い糸)を経糸に、ビロードのような仕上がりを狙った二重織りの試作が進んでいました。

 
  それでは、こうした重装備機器を使って、どのような布ができるのでしょう。『霜華』と命名されたタペストリーは、綜絖14枚、ウールと絹の3重織りの作品。織り上がった後、大きめの洗濯機で50度のお湯を加えて撹拌すると、ウールと絹の縮みの差からウールはフェルト状に、絹糸は撓んで残る、という技法により作られました。織りフェルトとも呼ばれるこの布は、ウールと絹、ウールと木綿などの交織により、高温、高湿にアルカリ剤、石鹸を加え摩擦の3条件が与えることによって得ることができます。堀内さんは、素材である糸作りから始まり、この縮絨(しゅくじゅう)という技法を駆使し、誰も織ったことのない立体的で構築的な布作りをしています。
 
堀内さんが、均一な経糸緯糸の呪縛から解き放されたかのような自由な布作りに進むようになる前には、地元の着物産業にどっぷりと関わってきた職業人としてのキャリアがあります。それは松本市の繊維工業試験場での紬の着尺用図案作りから始まりました。昭和48年から10年くらいも続いた絣ブームでは、信州紬のデザイン指導に明け暮れました。年間300点を超える図案を考案し、それを機屋が織り、問屋が求めるという産業のかたちの一端を担っていました。着物が下火になってからは、機械織りの上田紬のための服地用テキスタイルデザインに取り組みました。長野県の地場産業として江戸時代から続いてきた紬の織物が現代に適応してゆく過程を、まさに体験してきたといえそうです。こうした仕事の積み上げのなかから、堀内さんの興味は、次第にテキスチャ−のある布から、さらに立体的な布へと展開してゆきました。
 
  堀内さんの作品は、数学的な緻密な計算から生まれたもの、計算のあとにくる偶然やインプロビゼーションを楽しんだかのようなもの、そして複雑な素材と技法を用いながらも抑制された表現のものなど、多様性に富んでいます。
宮仕えの定年を前倒しして、染め織りに没頭できる生活がくるのを、今や遅しと待っている、とおっしゃいます。日本のテキスタイルをますます面白くさせてくれる、その日が早く来ることを期待しましょう。

SYLVAN連絡先:tel 0268-38-8043
http://www.janis.or.jp/users/horichi
    (2006/9 よこやまゆうこ)

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