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『アジアの布に型染する津田千枝子さんを訪ねて』


型染は柿渋で固めた渋紙に模様を彫り、色を挿して染めてゆきます。沖縄の紅型(びんがた)がこの技法です。また、芹沢介が独自の世界を築き、多くの弟子が輩出しました。藍染め浴衣などにも型染が使われます。津田さんの型染は、そのどれとも異なる彼女だけのスタイルをもち、ナチュラルで、現代の気分を感じさせ、肩ひじ張らないライフスタイルにすんなり溶け込む布たちです。

 
 
 

津田さんが型染をするようになったお話を伺っていると、その環境や幼い頃から周囲に居た人たち、偶然の出合いや成りゆきなど、「斑猫」の後を追っているうちに、いつしかこの道に歩み込んだような印象を強く受けます。
お絵かき教室に通う絵の好きな女の子は、日本画をしていた大叔母の影響で東京芸大日本画科に。卒業後、何をしようかと思っているところに、紅型のおけいこをしていた母の手伝いで渋紙を彫るようになり、プロの型彫師たちに習う機会を得、いつしか友禅の先生のところにも出入りするようになり、学生時代の男友だちと結婚し美術史家の妻となり、人間国宝の彫金作家内藤四郎氏に可愛がられ本物に親しむ体験を積み、菅原 匠さんの藍染の講習会に出たら、いつの間にか菅原さんから本格的藍瓶が家に届き、庭の一角に埋まることになった、といった具合。良き師に恵まれ、その誰からも愛され、知識と手技と審美眼の3つともを理想的な形で自分の物にしていったように思われてなりません。そばにある幸運を無意識につかみ、吸収し、無理なく自分の力にしていったということでしょうか。
でも、偶然の幸運だけではなく、直感的に必要なものを探しだし、積極的に参加し、最後の一人に残るまで学び、と人並みはずれた努力家でもいらっしゃることも確かなようです。それを軽々とやっていらっしゃるところがお人柄とお見受けしました。

 
 

津田さんの型染の一つの特徴は色使い。型染は綿、絹、麻などの比較的凸凹のない布に、型紙を置いて細かな線をきっちり出すのが一般的で、紅型のように、カラフルで強い配色が好まれます。長板中形では本藍の濃淡に技を凝らします。一方、津田さんの色使いは、そのルールにはあてはまらず、思いの色のイメージにむけて顔料を呉汁で練り、色を変化させつつバランスをとりながら刷毛で挿してゆく手法です。地色には野蚕の色をそのまま生かすことも、先に草木染めで地染めをする場合もあります。落ち着いた自己主張しすぎない色使いです。
津田さんの型染のもう一つの魅力は、テクスチャ−のある布使いです。アッサムシルクを自分で精練して染めたり、きびそと呼ばれる繭の糸の引き初めに出る硬い糸だけで織った布とか、ムガシルク、タッサーシルク、ギッチャ、エリ蚕など、インドの布を多用します。
インドはすでに7回訪れています。インドはテキスタイルをする人にとってはメッカのような国で、想像を超えた細く上質の綿糸や、蜘蛛の糸のように細いムガシルクを始め、次々と考案される新しい織り柄をもつ布などを見つけることができます。津田さんも、僻地の山奥まで精力的に糸や布作りの現場を訪れ、面白い布がないか見て廻ります。10月にはミャンマーを訪れ、蓮の繊維から作られた藕糸(ぐうし)を作る村を見学しました。藕糸は仏教の布としてミャンマーでは大昔から作られてきたそうで、村人たちが器用に蓮の茎から繊維を引き出し、糸にする様子に感動。手に入れた藕糸の布も早速染めてみました。次の帯の個展*にはラオスの布も出品されます。

 

こうして伺っていくと、津田さんの布作りはアジアにその発想の源があるかのように思われますが、むしろヨーロッパの影響が大きいとおっしゃいます。それは、30代の半ばから、美術史を研究する夫に伴い、ヨーロッパ各地のロマネスク様式の教会を、毎春1ヵ月かけて巡った経験があるからです。そこで見たフレスコ画のザラットとした質感には、石が原料の顔料を使う日本画に共通するものが感じられました。そこからテクスチャ−のある野蚕布へとつながっていったのでしょうか。
津田さんのような型染をする人は少なく、ずっと独りでやってきたとおっしゃいます。伝統的な技を習得したなかから編み出した独自の手法で創られた風合い豊かな帯は、2本と同じものがありません。ブラウス、インテリアの布、袋などの小物はどれも知的でチャーミング。よれよれになるまで使い込んで自分だけの一品に育てたい作品ばかりです。
津田さんの布との語らいはこれからも続きそうです。

 

* 個展のお知らせ:『津田千枝子の染帯展』
  2006年12月21日〜24日
  青山 八木 03-3401-2374
  URL:www.aoyama-yagi.com

    (2006/12 よこやまゆうこ)

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