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『六高寺菜穂さんのSHIB酒袋鞄』

素材感、時を経たもの、上質な手作り。この三拍子そろったトートバッグをプロデユースしているのが「ひとものこと」の六高寺菜穂さん。「Metamorphosis, HITOMONOKOTO -- 時間を越え、心がうごく。」が東京港区の「ギャラリーMITATE」で開かれました。「SHIB酒袋鞄」と名づけられたトートバッグは、一つ一つ異なる表情を見せながら、おのおのが強烈な個性を発揮して、その既視感のなさは驚きでした。いったい誰が作ったのかしら!?

渋谷区にあるグラフィックデザイン事務所の一セクションで、「ひとものこと」は、六高寺さんのディレクションのもと、さまざまなモノを開発しています。酒袋鞄、それから派生するポケットバッグ、カードケース、山葡萄蔓皮包みの石の指輪、竹ペン、和紙文具、モンゴルフェルトのスリッパ、米つなぎ切り子ワイングラス、山中漆器の茶筒、蜜蝋リップクリーム、アルガンクリーム、チベットのバスソルト、などなど。一見脈絡のない品揃えでが、すべて六高寺さんの飽くなき好奇心とこだわりとで選び抜き作り上げられた訳ありグッズばかりです。
六高寺さんは大学で現代アートを学び、グラフィックデザイン会社に入社。そこでの仕事は、メーカーが新製品を世に送り出すときに必要なネーミング、カタログ制作、ショップ展開、総合的なスタイリングなど、マーケティングのヴィジュアルな分野でした。このキャリアが、分野にとらわれない広い商品開発の下地になっているようです。
錆びた金属、丁寧に使い古された布、水に磨かれた石やガラス破片など、時を経たもののもつ表情に美しさを感じるという六高寺さんを魅了したのが、濁り酒の糀を漉すための綿袋。抗菌を増すために柿渋を塗り重ね、革のような風合いになっています。さらに、破れを綿糸で繕う“むかで縫い”がそこここにあり、酒造りの現場で長く大切に使われてきたことがわかります。これを譲り受け、革を扱い慣れた馬具メーカーの職人さんに巡りあうことができました。
SHIB酒袋鞄の二つ目の特徴は、牛革の取っ手。馬具に使われるブライドルレザーを使い、熟練の馬具職人による丁寧な仕事が際立ちます。パラフィン(蝋)仕上げの上質な艶、ステッチの安定感、手になじむ持ちやすさが、このバッグの実用性を高めています。さらに目を見張らせるのが内布。インドパッチワーク<1>、絹の着物地<2>、五月鯉幟<3>、大漁旗<4>、筒描の油単<5>、など、すべて一点限りの掘り出し物です。和更紗、ウズベキスタンのスザニ刺繍布、オールドキリムをあしらったものもあります。これらの布を、もっとも絵柄の面白い部分を使い、端切れはポケットバッグやカードケースにと、最後まで使い切ります。
求める素材にであうまでの時間と、数仕事に慣れた職人さんにほんの数点を引き受けてもらうまでの粘りと、貴重な布を惜しげもなく使う思い切りのよさによって、酒袋鞄は今まで見たことのなかった一品に仕上がっていると言えそうです。サイズは、インテリアオブジェにもなりそうな迫力の大、実用的な中、気軽に持てる小(取っ手はブライダルレザーではありません)の3種類。

<1> インドの豊かな布扱いの一つパッチワーク。女性たちが手間ひまかけて布に描いた絵。象の姿を中心にのどかな農村風景の図。

<2>菊と紅葉柄。翠色で染められた秋のモチーフの連続模様の着物地。酒袋とのコントラストが効果的。

<3> 明治の終り頃、堺の和凧職人が始めたという金太郎が跨がった珍しい鯉幟の染め布。

<4> 岩手県の漁港で50年代に使われていた大漁旗。大漁を知らせる極彩色の旗を舳先にたてて帰港する喜びの布。

<5> 油単は湿気や汚れを防ぐために長持や箪笥にかける布のこと。山陰地方の筒描草木染めの綿布。
 

六高寺さんの夢は、これらの品揃えをパッケージにしたコーナーを、落ち着いた佇まいの本屋さん、お洒落なカフェ、高級エステサロンなどのコーナーに展開することです。NY、上海、シンガポール、ロンドン、、、、イメージはすっかりでき上がっています。対象は、少数だけれども世界中に必ず存在するであろうブランドものに飽きた成熟した顧客、といったところでしょうか。数年前、英国のライフスタイル誌MONOCLEに掲載されたとき寄せられた相次ぐ問い合わせに、海外展開の確かな手応えを感じました。近い将来、世界戦略の足がかりを得られることを願いましょう。HITOMONOKOTOのサイトはこちら 。〔トートバッグの写真はすべてHITOMONOKOTO〕
    (2012/2 よこやまゆうこ)

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