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『自在置物を彫りだす大竹亮輔さん』

江戸指物(さしもの)の戸田敏夫さんから、薄い和紙を探している工芸家がいる、と連絡を受けました。その工芸家は木彫家であり、制作中の蜻蛉の羽根にする薄い和紙をさがしているとのこと。30年ほども前、土佐の紙漉さんから頂戴し、一度も使う機会のなかった極薄和紙が、その方の求める紙ならばと、お譲りしたのが大竹亮輔さんとの出会いでした。
江戸末期から続く工芸に「自在置物」というジャンルがあります。置物でありながら、自在に動かせるのでこう呼ばれ、素材は主に鉄や銀、銅などの金属。龍、鯉、蛇、昆虫類の関節や接合部分が動くように仕組まれているというものです。今では作る作家もほとんどなく、一般人の目に触れることも、まずないという工芸品です。
若干26歳、超絶技巧の持ち主と知る人たちの間で呼ばれている大竹亮輔さんは、「自在」を木で作ります。接合部分は「カチッ」とはまり込む仕組みになっていて、動きによって割れたり欠けたりしないように作るところに超絶の技を要するのだそうです。もちろん、作る物体が実物そっくりであることは言うまでもありません。つまり、彼の試みは、生物を、木彫で見かけや動きまでそっくり再現しようというものであると理解しました。何故そのような難しいことに挑戦するようになったのか、彼のキャリアを伺ってみました。

 
 
東京大学教育学部付属中等教育学校という、一見、進学校で教員になりたい学生が入りそうなこの学校は、全くそうではなく個性尊重。大竹さんは高校卒業の卒論で「江戸指物」を選び、戸田敏夫さんの作品に感銘を受け、京都伝統工芸大学校に進学。木彫刻師・渡邊宗男氏の指導のもと、2年間木彫を学びました。その後、彼の卒業制作「麒麟」の彫り物の出来映えがおめがねに叶い、飛騨高山の木彫刻師・東 勝廣氏の内弟子に。見せていただいた「麒麟」は、馬のような鹿のような想像上の動物が、今にも飛翔するばかりの律動感で彫りだされています。ほぼ一刀彫。そのバランス、筋肉の様子など、17、8歳の青年の仕事というから驚きです。この作品は、京都伝統工芸大学の須藤先生という仏像彫刻師からも高い評価を受け、大竹さんに大きな自信と、進むべき道を開いてくれました。
学校のあった園部近郊には砥石の産地があり、このとき、彫りにとっての刃物、それを研ぐ砥石の世界にも造詣を深めることになりました。今は20種類ほどの砥石を使い分け、アールのついた彫刻刀を研ぐために、自分で砥石を彫って使っています。明治時代の彫刻刀などもネットで探しもとめ、今よりも良質の鋼が使われた当時のコレクションは、彼の宝物です。

飛騨での修行は、内弟子ならではの辛いこともありながら、3年間を通じて、原木市で木を見定めることや、最も難しく最も重要な荒彫りから、繊細な仕上げまでの技を学びました。「自在」では、動きに耐えられる粘りのある木目の細かい強い木材であることが必須です。彼が好んで使うのは黄楊(つげ)。昔から櫛の材料に使われてきた黄楊とは違う、育ちの遅い硬い種類の木です。


写真 伊勢海老(大竹亮輔)

  黄楊で作った「伊勢海老」は、大小100以上のピースを繋ぎあわせてできています。組み方を学ぶ一番の師匠は、実物の生物。生きた伊勢海老を求め、身を堪能した後は、すべてのパーツをほどいて並べ、標本にします。つなぎ部分で最も難しいのは、動きをどこで止めるのか、ということ。節足動物では、外に骨格があるので、生き物は膜や筋肉で動きを調整しているところを、「カチッ」と嵌めるその微妙な頃合いで、スムースに動き、かつ自然なとまり方を制御しなければなりません。髭は鯨の髭、目はガラス、膜は鹿革と言う具合に、異素材を使いこなす技も必要です。色づけには、目下植物染織も研究中です。

26歳はただただ『好き!!』を武器に、師もなく、誰も踏み入ったことのない「木彫自在」の領域を邁進していらっしゃるようです。80歳を超えた師・渡邊宗男氏のことば“技術は無限、清水のごとく湧いてくる”を教えとして、すでに超絶技巧を身につけている上に、さらなる高みを目指し、制作が楽しくて仕方がない旬の作家です。彫るところを見せてくださった大竹さんの左の親指の爪の角に、古びた絆創膏が。彫刻刀の背を押すことで、爪が減ってしまうのだそうです。自らの身を削って生み出す作品は、手元に一点も残らないほど、既に国内外のコレクターの熱い注目を集めています。
その人気ぶりが納得の驚異の技、そして、それが精緻の極みだからだけでない、人間の手の技の暖かさが感じられる作品になっているのは、彼のお人柄の故と拝見しました。
写真 勝虫(伏見眞樹)
(最新作「勝虫」写真説明:一刀彫で彫りだした蓮根の上に本物の蜻蛉を置いて感じをみる/翅は和紙、竹、葉脈、複眼は緑めのう、3つの小さな単眼はガラス/敗荷の穴から光が洩れる、その下には、小さな蝸牛。蜻蛉の尻尾をそっと持ち上げると4枚の翅が動く)

大竹さんのface book:
https://www.facebook.com/ohtakemokucho


展覧会のご案内
2015年4月30日(木)〜5月6日(水・振休)、
渋谷・東急本店8階美術ギャラリー
木彫、ブロンズ彫刻などが展示されます。大竹さんは新作「勝虫」を出展されます。
    (2015/4 よこやまゆうこ)

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