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<番外編>作るから使うへのつなぎ手 その2:広瀬一郎さん
<番外編>作るから使うへのつなぎ手 その2:広瀬一郎さん
広瀬一郎さんは、東京港区西麻布の一隅に工芸の店『桃居』を構える店主です。1987年の開店から30年という年月、大きく世の中が変わるなか、手作りの器を見つめてこられました。時代を感じ分析するセンスと作品を見る確かな眼は『桃居』のスタイルとなって、今では間違いのない器選びのできる店の風格を醸し出しています。
30年間、ご自身のことをほとんど伺ったことのなかった広瀬さんに突撃取材。小売店主から見た「暮らしの器」について語っていただきました。

学業を終え就職したものの勤め人は不向きであると気づき、神田神保町で珈琲店兼バーを開くことに。店主業のかたわら、現代美術に関心を深め、本を読み美術館、画廊めぐり。ところが10年もたった頃から、“現代美術にドキドキしなくなった”一方、土器や須恵器といった古いものへの関心を深めてゆきました。そして美術陶芸ではなく、暮らしの器としての陶芸に興味をもつようになりました。1980年代中〜後半、まだ作家ものの器を日々の暮らしに使う習慣は一般的ではなく、量産された産地ものの茶碗や皿や湯のみが瀬戸物屋さんに積まれている時代でした。40代目前の広瀬さんは、作家が手作りした暮らしの器を扱う店を作ることは、“40代をかけるに足る仕事”と思うようになりました。川淵直樹、村木雄児、花岡隆ら同世代作家との出会いがありました。ギャラリーの大谷石の床、ジョージ・ナカシマの展示テーブルなどに、広瀬さんの建築、インテリアへのテイストが伺われ、無駄のない快い緊張感とほっとする手の温もりの共存する空間を作り出しています。
作り手と使い手の架け橋となって30年。バブルとその崩壊、金融危機、モノ離れの若者たち、と日本社会が動くなか、広瀬さんが感じてこられたのは、若い人たちのライフスタイルとモノの関係です。“感度”のよい若者たちは、建築、デザイン、ファッション、音楽といった異ジャンルを見渡したトータルなセンスで、お茶漬け用の茶碗を選んでいるというのです。それは、陶磁器の長い歴史を踏まえた縦軸ではなく、異ジャンルの横刺し。つまり、ライフスタイルに合うと思えば、有名無名に関係なく、高い安いに関係なく、好きな物を選ぶといういきかたをする人たちが増えてきたということです。一方、作り手にも、同様の変化が起こっていました。自分の作陶が陶芸の歴史の流れのどこに位置するかに関係なく、作りたい物を作って発表する。そしていま、彼らは言葉を持ち、自ら発信するメディアを持ち、ライフスタイルに共感する使い手と直接つながることができるようになりました。漆器の赤木明登、木工の三谷龍二、陶器の安藤雅信らの名を挙げて下さいました。彼らは自らのサイト/ブログを通じて発信し、若者向け生活誌や女性誌に取り上げられ、トークショーをもち、使い手と極めて近い距離にいます。寡黙な作り手ではなく、自己表現とコミュニケーションを自らも楽しもうとする作り手たちです。
さらに、海外からの顧客にも変化があるとおっしゃいます。日本情緒を求めてのお土産品ではなく、日々の食卓で使うものとしてセットで器を買ってゆく人も多いとか。これは世界中、情報が同時に均一に発信され受信されるいま、不思議な現象でなはいでしょう。同じ感覚のファッションを身につけ、同じ演劇や音楽を観、聞き、同じワインやsakeを楽しむ層が、同時発生し確実に育っているのです。 また、広瀬さんの“工芸と美術の境目で仕事する人が増えている”は刺激的な言葉です。いわゆる民藝的でもなく、数をこなす職人でもなく、かといってとんがりすぎず、自然体で美的なものを目指す作り手たちです。茶の湯に流れる“美的遺伝子”は、人と人とのつながりのなかでモノの楽しさを共有し、暮らしを豊かにするためのモノを作ってゆくことのなかに流れているということでしょうか。広瀬さんはその仲立ちとしての役目を、これからもずっと続けたいそうです。
桃居のアドレスは:http://www.toukyo.com


広瀬一郎さん(左)と赤木明登さん(漆作家)
(2018/3 よこやまゆうこ)

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