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工房探訪・投稿『工房千樹再起の記』

木地師(きじし)という職名がすぐに分かる方は、そこそこ漆器まわりのことをご存知の方であろうかと思います。『木地師は、轆轤(ろくろ)を用いて椀や盆等の木工品を加工、製造する職人。轆轤師とも呼ばれる』とWikipediaにあります。その職業としての歴史は、『九世紀に近江国蛭谷(現:滋賀県東近江市)で隠棲していた小野宮惟喬親王が、周辺の杣人に木工技術を伝授したところから始まり、日本各地に伝わったと言う伝説がある』という由緒あるもの。現代では、漆作家が独自の型を生み出すための、欠かせない裏方とも言えるでしょう。

もう随分前から、日常の漆器製品の需要は下降線を辿ってきました。日本各地に残る漆器産地の塗師屋さんから悲鳴が聞こえ始めてから久しくなります。
そのような状況の中ですが、石川県山中には、日本各地の漆作家から木地を依頼される、優れた木地師さんがいらっしゃいます。『工房千樹』もそう。神奈川県葉山で漆器制作を続ける伏見眞樹さんは、長らく挽物木地を『工房千樹』に依頼してきたお一人。地道な努力でファンを増やしてきた漆作家さんたちは、大切な日本の漆器という文化財を、わたしたちが日常に使うことを可能にしてくださっています。木地師と塗師の絶妙なチームワークを応援したいと思います。

再興なった工房祝いに駆けつけた伏見さんが、そのレポートを寄せてくださいました。
工房千樹の再建を祝う    伏見眞樹(湘南の漆)

昨年末、石川県山中の木地師佐竹泰誌君から一通のハガキが届いた。2017年9月30日未明、類焼により焼失した工房千樹の再建の報告である。その新しい工房を見るべく佐藤智洋君と山中温泉へと出かけた。

泰誌君の父、康宏氏との出会いは30数年前、木曽での修行時代に私の師である佐藤阡朗に連れられて工房を訪ねた時だった。その時のこれこそが「職人」、と思った強烈な印象は忘れられない。それまで技術を習得すれば「職人」になれると思っていたが、佐竹家のそれは親子二代の夫婦が、それぞれの役割をごく自然にこなす理想的な職人一家だった。しかもその職人一家も、一家族だけで成り立っているわけではなく、山中漆器の産地があってこそ。それを目のあたりにして、個人の努力だけでは叶わないことがあることを知った。どれだけ技術を身に付けても、自分のことを「職人」と呼ぶことはもうできない。もしも問われたら自分は職人的な技術を持った「作家」と答えるしかない。

さて、再建された工房千樹は、以前より一回り小さくなったとはいえ十分な広さがあり、お洒落な真黒な外壁の平屋建て。外光をふんだんに取り入れたロクロ場は明るく、センターに据えられた薪ストーブだけで十分に暖かい。3台のロクロの他にも、旋盤やグラインダーなどの機材が所狭しと配置されて、作業の能率が上がるに違いない。別室の漆部屋はほど良い広さで、北向きの窓からの採光は塗りの作業に最適。もちろん保温性も十分に配慮されていた。一番奥には小さなキッチン付きのギャラリースペースも設けられており、少人数でのイベントで盛り上がる光景が目に浮かんだ。

私は独立してから毎年、3種類ほどの新作の図面を持って山中へ出向き、父康宏氏に見本挽きをしてもらった。しかし4年前に康宏氏が早逝されてからはその機会はなくなり、泰誌君による見本挽きは今回が初めてだった。康宏氏の初めての見本挽きは、図面を見るなりこちらが口を挟む間もなくあっという間に木地を挽き上げた。その見本を自宅に持ち帰り、改めて実物から図面を描き起こすと、ほとんどが図面通りではなかった。二次元の図面では立体感を想像できなかった拙い私の図面を読み取って、康宏氏が私の求めていた形に仕上げてくれたのだ。それに対して、息子泰誌君は何度も手を止めて私に確認を求めながら、慎重に時間をかけて望み通りに仕上げてくれた。同年代の佐藤智洋君の新作の見本挽きも、あれこれと意見交換しながら進めていた。スタイルは違えど、依頼主の希望を最大限に叶えようとする姿勢は受け継がれていた。

そして、受け継がれているのはそれだけではなく、やはり職人一家であること。泰誌君夫婦は子育て真っ最中。奥さんは保育園の送り迎えなどに追われながらも、工房の旋盤で荒挽きや事務をこなしていた。お母さまはお婆さまの介護と家事全般を担っている。10歳になろうとする息子と保育園年長組の娘が、10年、20年後には職人として活躍している新生佐竹家を見届けたいものである。

工房千樹/佐竹泰誌(ヤスシ)
〒922-0139 石川県加賀市山中温泉菅谷町ヘ110
TEL 07617-6-9313

dmki_stk@marble.ocn.ne.jp

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(2020/4 よこやまゆうこ)

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