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ラワン材仕立て、奥行の浅い15段のぐい呑み棚。
<シリーズ・私のたからもの>『萩原 薫の棚のぐい呑み』

萩原さんは、SideStory#357から6回にわたり、『季刊銀花』での逸話を投稿してくださいました。長きにわたる編集で出会った作家たちの作品に触れ、ついコレクションが増えていった事情は然もありなん、と思わされます。日本の現代工芸を代表する作家たちばかり。羨ましい限りです。

   築50年近い我が家の居間に、造り付けのぐい呑み棚がある。「日本人の暮らしの美意識」が主題の雑誌、『季刊銀花』の編集者を長く続けていた私の為に、日曜大工が趣味だった建築士の夫が仕上げてくれた。ラワンの端材仕立ての棚には様々なぐい呑み。取材の折に求めたり、展覧会で入手した姿は実に様々。一時は15段の仕切にびっしり盃を並べていた。先の大震災の折も無事ではあったけれど、流石に反省。「展示」数を減らして塗物を中心に、折々に入れ替えるようになった。
   初めから蒐集などは考えの外。ぐい呑みなら、のけぞるほどは値が張らぬし、個展などでは作り手の才や知恵や努力へ、私なりの拍手を贈る気分で、一点ずつ求めた品々だった。
   客を招いた折に棚から好きな器を選んでもらうなど、随分と楽しく付き合って来たけれど、近年はお酒を控える人も多く、自身も酒器としてよりは時折、小鉢代わりに使ったり、手に取り様々思いを巡らせたり、が多い。
   ぐい呑みには洋食器のグラスなど揃いの器とは異なる楽しみ、文化が潜んでいる。掌に取ると作り手と直に会っているような気分にもなる。酒好きな作者のぐい呑みは一味も二味も違うとの、呑助陶芸家の言も思い出される。漆の角偉三郎さん。焼物の鯉江良二さん、和太守卑良さん、ガラスの石井康治さんなど逝去された方の形見めいてしまった品もある。残念ながら棚の作り手も、もう32年ほど前に命を天に還した。
   もちろん、ぐい呑み棚には黒田泰蔵さん、光島和子さん、赤木明登さん、三上亮さん、滝口和男さんなど、益々活躍中の工芸家の、実にチャーミングな「ぐい呑み」も並んでいる。どれもが私にとって、コロナ禍の「日常」を、静かに癒し、照らしてくれる品々でもある。


ガラスのぐい呑み。ベルリン育ちも居る。



焼物のぐい呑み。傑物揃いの顔合せめく。



滝口和男さんの帽子盃。見込にバットとボール。虫取り網。


箱や箱書きに拘る方ではないが。作者の人柄が滲む箱書きが多い。



角偉三郎さんの盃様々。高台の星も味わい深い。
(2021/3 よこやまゆうこ)

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