Home Feature Side Story Shopping About Us
prev.
<番外編>山梨県北杜市にある『浅川伯教(のりたか)・巧(たくみ)兄弟資料館を訪ねる』
   中央自動車道を長坂ICでおりて東へとると、五町田交差点に出ます。交差点近くに『浅川伯教・巧兄弟資料館』があります。この浅川兄弟こそ、「民藝運動の父」と呼ばれる柳 宗悦に李朝白磁の存在を教えた兄弟です。東京渋谷区にある「日本民藝館」には、素晴らしく美しい李朝白磁器の数々が所蔵展示されています。五町田を故郷とする浅川伯教・巧兄弟が、当時朝鮮の人々が日常雑器として使っていた白磁の美しさを最初に認め、朝鮮各地を巡って調査収集にあたったことは、あまり知られていないようです。もっと広く知られていいことだと思えてなりません。

   資料館に足を踏み入れると、まず、伯教・巧兄弟の大きな写真が目に入ります。学究肌でシャープな印象の兄、林業を職業とし朝鮮の禿山を緑にしたいと粉骨砕身した自然派の弟・巧、それぞれの個性をその写真から感じ取ることができます。左側の壁には、二人の朝鮮での活動の年表とともに柳 宗悦の動静が重ねられ、3人がどのように朝鮮の焼き物と関わったかが一目でわかるようになっています。
   そもそも、1913年、京城(ソウル)に住むようになった伯教が、古ぼけた骨董店で見つけた白磁の小壺を、兄を追って翌年京城入りしていた弟・巧に見せたところ、巧もその美しさに感銘を受けました。そして翌年、柳 宗悦を訪ねた伯教が手土産として持参した壺が、兄弟と柳が朝鮮白磁との長く深い繋がりを持つようになる全ての始まりだったのです。
   その後、兄・伯教は朝鮮青磁器の研究に没頭し、弟・巧は白磁の調査収集に情熱を傾けました。青磁器は韓国陶磁の代表として格調高く高尚なものとされ、一方、白磁は、庶民の日常雑器として名もない陶工の手で作られ、その暖かで無口な美しさには、それまで目を向けられることのなかった焼き物でした。のちに「民藝」という言葉を生み出した柳も朝鮮に滞在し、巧と共に白磁の収集にあたりました。そして、日本でも無垢な美しさを持つ全国各地の生活工芸品を蒐集、今日の「日本民藝館」のコレクションの基礎を作りました。3人は京城に「朝鮮民族美術館」を開館し、朝鮮民族の手仕事を後世に残すことに貢献したことは特筆すべきことだと思います。
   資料館の展示は、白い民族衣装チョゴリ・バジ(男性の普段着)の巧が地元の人と苗木を植えるシーンや、焼き物の破片が大量に埋まる丘の窯跡で発掘作業にあたる伯教の姿のジオラマが、彼ら二人の活動の様子を彷彿とさせてくれます。
   おおむね、地方の歴史館や資料館は、どこか埃臭く、一旦展示してしまうとそのままなおざりな運営がなされている印象を受けがちですが、この資料館は実によく企画展示され、説明文もわかりやすく説得力ある文章で綴られています。この決して大きくはない資料館が、開設時から現在の運営に到るまで、関係者の浅川兄弟への深い理解と愛着が感じられます。
   訪問する前からの疑問が一つありました。なぜ、この地方から出た兄弟が、かくも優れた鑑賞眼、審美眼、調査研究への情熱を持ってこのような偉業を成し得たのだろう、ということでした。そして、この山梨県の五町田地域(現在の北杜市高根町)の持つ高い文化レベルにその答えの一端があることを知りました。兄弟の父は早逝し、2人は祖父に育てられました。この祖父は、その流れを葛飾蕉門系の俳諧の流れをくむ俳人であり、漢学、茶道、生け花、陶芸と広範な趣味と知識を持つ人物であったということです。地域としての文化度が非常に高かったのです。ちなみに、北杜市出身者として、松尾芭蕉と親交を結び、蕉風の成立に貢献した江戸前期~中期の俳人・山口素堂、近代では南画の有力画家・三枝雲岱、現代では、国語学の祖・金田一春彦、画家・平山郁夫らが資料館の隣室の「ほくと先人室」に紹介されています。先人室には、文芸、科学、産業、経済、芸術、教育と多分野にわたり活躍した地元のリーダーたち42名が紹介されています。
   1931年、巧は業務の植林と白磁収集分析の疲労から病に倒れ、42歳という若さで亡くなりました。そして韓国の人々に慕われ「韓国の土になった日本人」と呼ばれ、その墓は今も現地の人々により手厚く守られています。このことからも、韓国併合時代、戦中~戦後を通じて、一貫して地元の人々を尊び、平等に接し愛した巧の変わらぬ心根が偲ばれます。1946年日本に帰国した伯教は、作陶のかたわら『李朝の陶磁』を著し、80歳まで生きました。
   巧は次のような文章を書き残しています。「疲れた朝鮮よ、他人の真似をするより、持っている大事なものを失わなかったなら、やがて自信のつく日が来るであろう。このことは、工芸の道ばかりではない。  昭和三年三月三日 於清涼里」
   丘上に建つ博物館の前庭には、二人の顔のレリーフをあしらった碑が、年経た百日紅の足元に建っています。
浅川伯教・巧兄弟資料館
ところ: 408-0002 山梨県北杜市高根町村山北割3315
でんわ: 0551-42-1447
email: asakawa-muse@city.hokuto.yamanashi.jp
URL: http://www.city.hokuto.yamanashi.jp/hokuto_wdm/html/asakawa/br/
休館日: 月曜日(休日の場合翌日)年末年始 館内整理日
開館時間: 10:00~17:00(入館16:30まで)
入館料: 大人210円
(2021/9 よこやまゆうこ)

(C)Copyright 2004 Jomon-sha Inc, All rights reserved.

このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。

 

(C)Copyright 2000 Johmon-sha Inc, All rights reserved.