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<番外編><シリーズ・私のたからもの>『染織作家・足立真実さんの宝物は「杼」』
   機織りを知らない人が増えているような気がします。木製の高機(たかばた)を初めて見た、という決して若くはない女性に出会ったことも一度ならずあります。日常にそうした機会がなければ、無理もないことだと思いました。いわんや織りに使われる種々の道具においてをや。
   クラシック音楽のお好きな足立さんは、織られた布から音が聞こえてくるような作品群です。最近では「能」を題材とし「幽玄の世界から得た感動を紬の織りに込め」ていらっしゃいます。作家活動と共に、金沢美術工芸大学工芸科教授として、後進の指導にもあたっていらっしゃいます。
   杼(ひ)とは、織物を織るときに欠かせない道具の一つです。中央部を刳りぬいた赤樫の胴部に緯糸を巻いた管(くだ)をセットし、織機の開口した経糸の間をくぐらせ織り進めます。経糸と緯糸が組まれることで線から面に、糸が布になっていく。
   布を生み出す人間の営みの歴史の中で「必要は発明の母」と言うように、古来より杼の機能も発達してきました。現在のあらゆる布製品の生産にはジェットルーム(高速自動織機)のような機械化されたものが使用されていますが、その基となる手機のための杼のシンプルながら工夫が込めらた機能と手に馴染む感触を、私は愛おしく感じます。
   私が着物制作でメインに使用する杼は、20代後半に草木染めと紬織の技術をご教授いただいた村上良子先生から、4年間の学びの最後となる日にいただいたものです。その後25年間、杼は私の右手と左手を行き来し、何枚もの紬の着物を織り成してきました。杼の表面には艶が出てツルツルとなめらか、左右の手を一気に渡るための重さも適度にあります。制作中は音楽を流して織ることが多く、ある時はバッハのオルガン曲、またある時はジャズ、ロックのリズムに乗り、まるで自分が楽器を演奏しているかのような感覚になるときが、織の作業に集中できているように思えます。これからの制作のためにもなくてはならない愛用の道具であり、先生からいただいた大切な宝物です。

紬織着物「古の紅」「古の碧」

紬織着物「光の窓」(部分)

 
   織物の種類によって専用の織機があるように、杼もいくつものタイプがあります。様々な用途に合わせた杼を製造する長谷川杼製作所は、京都西陣に唯一残る専門の杼屋。全国の手織りの職人や作家の方々が頼りにされています。長谷川さんの杼は左右の手の動きに自然に馴染んで使いやすく、中でも私が気に入っているものは、機にかけられた経糸が開口する最後のギリギリを織るための織終杼。開きにくくなった経糸の隙間を通すために杼は細くて薄く、受取る側に届きやすいように長く作られていて、繊細なつくりですが丈夫です。糸を無駄にせずなんとか最後まで織りきろうとするその精神が道具にも表れていることには、使うたびに感心させられ、使い手も道具に対して感謝の気持ちを持って扱わなければと思います。また使い捨てのものが溢れている現代のことを考える中で、道具や原材料の成り立ちだけでなく、将来に残していくことにも意識を深めなければとも感じます。道具への感謝の念を忘れず、宝物の杼に思いを込めて、次の織制作に向かいます。
足立真実・京都
個展のお知らせ
とき: 2022年12月1日(木)〜12月6日(火)
10:00~18:00(最終日16:00)
在廊日:12月4,5日(土・日)
ところ: ギャラリー ノア
石川県白山市番匠町235−5
http://gallerynoa.jp/
(2022/11 よこやまゆうこ)

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