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<番外編>『金田一春彦記念図書館を訪ねる』
    「金田一」という覚えやすい苗字のゆえにか、金田一京助、金田一春彦、金田一秀穂の三代に渡る日本語学者の名は子供の頃から慣れ知っているような気になっている。京助はアイヌ語研究の第一人者であり、春彦はアクセントの研究を通じて方言の体系化や日本語の歴史変化に注目した。そして、秀穂は日本語学者として教鞭をとるかたわら、NHKなどの番組で、わかりやすく日本語のあれこれについて語っている姿を拝見する。今回、資料を繰っていて、ふと、春彦・秀穂氏の写真はたいてい笑顔であることに気づいた。

    山梨県北杜市の長坂ICから15分ほど車を走らせたところに『金田一春彦記念図書館』はある。”この館は日本一の富士山と二の北岳を一つ窓に見る”と書かれた直筆の色紙が置かれていたが、窓からは連峰が初秋の陽に輝いて見えた。
    東京生まれの春彦の記念図書館がこの地にあるのは、彼が八ヶ岳南麓の自然に魅せられ、1965年に大泉に山荘を建て、地域の人々と交流を深め、故郷のように愛したことが蔵書寄贈に至ったという経緯がある。しおりにある彼の言葉によると、”私は自分が死んだあと、私が持っている本をどう処分しようかと迷っていた。(略) そんなときに、私が夏の別宅を持っていた山梨県の大泉村から、図書館を建ててそこに置いてくれてもいいと言ってこられた。そうしてそれを希望者に貸し出せるようにしようかという話であった。(略)ただし私の本は、仕事柄コトバ・日本語に関する本が主で、それも方言に関するものが多い。こんな本を好んで読みに来てくださるかたがあるだろうか、と思っていたら図書館準備をしている方々が、これに方言を採録したテープや、方言を特集したカード等の資料を併せて、これをもとにして方言の資料館のようなものを作ろうと言われた。、、、”
とある。このことからも、四方八方幸せなかたちで実現した図書館であることがわかる。寄贈著書は28000点にのぼる。かまぼこ型の建物の前を走り抜けるたびに、なぜここに金田一春彦の名を掲げる図書館があるのだろう、、、と疑問に思っていた謎が解けた。
    館内は「金田一春彦ことばの資料館」、「日本の方言コーナー」のほかに、幼いころの写真やフィールドノート、衣服や愛用した楽器の琵琶が目を引く「展示コーナー」などがある。1mほどもあるトロフィーの説明には、「第1回有名人カラオケ大賞」受賞のもので、時の総理大臣小泉純一郎と優勝を競った、とある。「平曲」(平家物語の語り物)の研究では自ら琵琶をかき鳴らし歌ったほどに歌唱力があったのだろうと想像した。その後ろの着物姿で微笑む写真とともに、お人柄を彷彿とさせる展示からも、春彦と美術館の関係がとても良かったことが伝わってくる。

    テレビの普及に始まり、今や日本各地の方言が消えようとしているとも聞く。日本各地の手仕事の産地を訪ね歩いていたころは、高齢の職人さんたちの言葉を聞き漏らさぬようにと耳をそばだてていた記憶がある。いちばん難渋したのは山形弁である。何度聞き直しても1つの単語さえつかめず、最後には双方で笑い出してしまったこともあった。男性の土佐弁はセクシーだし、久留米地方の方言も耳に好ましい。
    都内からなら中央高速で2時間ほど。日本各地の方言を聴きに来るのも、悪くない大人の休日ではないだろうか。
金田一を春彦記念図書館
山梨県北杜市大泉町谷戸3000
0551-38-1211
http://www.lib.city-hokuto.ed.jp/

(2023/9  よこやまゆうこ)

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