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工房探訪その5「川平織りの深石美穂さんを訪ねて」

 


『布づくし・展 日本の布200選』出展者の工房を訪ねる工房探訪その5は番外編。ウイークエンドマーケットに参加された石垣島からん工房の深石美穂さんをご紹介します。

お住いの地名、川平は"かびら"と読み、その名をとって川平織と命名した絹の布は、絣に沖縄の伝統的な織り方である花織をあしらった着尺が中心です。深石さんの絣はとても複雑で、経緯絣を巧みに使い、文様の微妙な"ずれ"を特徴的な意匠としています。ご本人の弁では、"実像からすっと虚ろって離れていく形"を映し出すことを試みているそうです。そして絣の上に花織のちかっと光る点が浮きあがり、アクセントとも、一種の色気ともなっているように思われます。
この複雑な、しかも正確に色が薄れてゆくためのくくりの仕事は、かなり神経を使うものであるはず。長く張った糸の束を設計どおりにビニールの紐でしっかり縛ります。縛り方が少しでも緩いと、そこから染料が染み込み、絣の柄が壊れてしまいます。正確かつ完璧な仕事の末に生まれてきたのが、まるで筆で描いたようなグラデーションの美しい繊細な絣模様の着尺や帯です。

 

 


<空>
そもそも、深石さんご夫妻が石垣島に住むようになった経緯が奮っています。武蔵野美術大学を出て、当時ボーイフレンドであった新宿生まれの夫と、1ヵ月ほど西表島でキャンプ生活をしました。そのとき、土地の人たちとすっかり仲良くなってしまい、その後、東京に戻った二人に土地の人たちは熱心に呼びかけ、ついに二人は石垣島に住む決心をしたそうです。夫は島の植物にとても詳しく、それにも増して昆虫が大好き。豊富な色を提供してくれる植物があり、昆虫の宝庫のような石垣島は、お二人にとって最高の住処となったわけです。

 

 



天を突くデイゴの大木が真っ赤な花びらを散らす庭には、染料になる植物がたくさん植えられています。研究熱心な深石さんは、そうした植物から染めた糸を、資料としてデータに残し保管しています。20数年前まではインド藍もたて、土地で育てられた繭から座繰り糸もとっていたということですが、今では、石垣島では養蚕もなくなってしまったということです。

工房には6名のお弟子さんがいます。ある程度できるようになったお弟子さんは、染めと織りのすべての作業を自分一人で行うことが求められますが、仕上がった布が不出来であると、その場で燃やされてしまうのだそうです。着尺を燃やすなんて、何と過激なこと。素材に申し訳がないと思ってしまうのですが、一度そうして深く深く反省しないと、次からの仕事も中途半端になってしまう、と深石さんは考えてのこと。仕事に向う厳しさをおぼえてほしい、との思いからなのでしょう。

 

 

もう一つ驚いたことは、50才で習い始めた空手、4年目に黒帯をとったそうです。どんなに仕事が迫っていても、週に3回のけいこを欠かさず、そのときはすべてを忘れて集中するのだそうです。
気の抜けない作業の続く日々のなかで、自分を解放し、真っ白になる時間があってこそ、さらなる集中力が得られるのでしょう。所狭しと機が並ぶ工房に、どこかぴーんと快い緊張感が漂っているように感じられたのは、そうした深石さんの仕事や人生に向う姿勢があってのことと納得しました。からん工房では、染織体験エコツアーを提供しています。土地の植物の詳しい情報もこちらのサイト[LINK]で見られます。

(2004/4/26 よこやまゆうこ


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