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<番外編><シリーズ・私のたからもの>『大竹亮輔のたからもの アマゾンのナッツ』
Sidestory#315Sidestory#358でご紹介した大竹亮輔さんに、宝物は何でしょうと伺ったところ、 「木の実」と、まるで少年のようなお返事をいただき、全くの予想外。 でも、あ、いいな、と納得。自然の形は偉大なる神さまの造形力が 感じられ、日々、感嘆、感動することが多いからです。3cmほどの蛾の翅の 派手な模様に魅入られたり、2cmほどの緑の尺取虫の小さな足の様や、 背中のカーブに感動します。昔からアートは、自然からインスピレーションを もらい、模倣し、それを超える表現を求めてきたことを思います。

   これらの木の実については、中学時代にお世話になった生物の恩師で、蟻の研究者でもある山岡寛人先生の話から始めなければなりません。
   当時、学校に馴染めず、生物教官室に入り浸っていた私は、先生からさまざまな生物の多様性や、観察方法を教えてもらいました。中でもツルグレン装置という、土壌の微生物を採取する方法を習い、ひたすらダニやトビムシを顕微鏡で眺めていました。生物循環の最終形が、こんなにも小さな生き物たちで回っているのかと、感動する日々でした。

   先生は退職後、「豊かな暮らしをする」ことこそ自分の研究の目的だった、と千葉の館山にみかん山を購入し、自給自足を目指した生活を始められました。岩だらけの土地を、お世話になった者たちが集まって開墾し、繰り返し土を入れ、なんとか作物の作れる畑にしたのでした。先生はそこで日々の暮らしを俳句に詠みながら、季節の移ろいを深く捉えていらっしゃいました。卒業後も援農と称して何人かでたびたび訪問し、土を触る面白さ、楽しさを思い出させてもらっていました。それは先生の最期の時まで続きました。

プラジリアンナッツ

サガリバナ科の実

サキシマスオウノキ

スナバコノキ トウダイグサ科

モンキーコーム

ツクバネタデノキ (蟻と共生するためアリノキとも呼ばれる)
   その援農の報酬として頂いていたのが、この木の実たちです。先生がどのような場所で入手したのかなど、現地の様子と共に語って頂けたことで、旅の思い出がその実に刻まれているように感じられたものです。
   ほとんどの実は、先生が研究でよく訪れていた南米、アマゾン周辺のものです。一番大きなブラジリアン・ナッツは、もちろん食べるものではあるのですが、その中身が立体のパズルのようになっているので、現地の人たちはそれで遊んだりするようです。何度か挑戦してみるのですが、やり始めるとあっという間に何時間も過ぎてしまうほど、意外にも難解極まるものです。
   先生のお話では、この球状の実と筒状の実は同じ種類の植物だそうです。形の違いにここまでの差があるのが不思議です。中でも私の1番のお気に入りはモンキーコームと呼ばれる、まるでアラレ模様の南部鉄器の鉄瓶のような佇まい。その名の通り、現地の人たちの間では「猿の櫛」と呼ばれているそうです。そのような発想に至るまでの人々の生活も想像ができて、とても面白いのです。
   そして、日本では決して見ることのできない不思議な造形美。日頃、自然の生物などをモチーフに彫刻作品を制作しているので、自然界の生み出す曲線は丁寧に捉えるよう心がけているのですが、この木の実たちの見たこともない造形には、脳が覚醒するような感覚に襲われます。制作に行き詰まった時などには、手のひらに乗せてよく眺めています。
   この木の実たちは、不思議な造形美だけではなく、”本当の豊かさとは何なのか"と言うことを、自らの生き様で伝えてくださった先生との記憶が刻まれていて、そういう意味でも私の宝物となっています。
大竹亮輔
(2021/6 よこやまゆうこ)

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